Japanische Klassiker mit Furigana
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げんじゅつてんまたろう
幻術天魔太郎
野村 胡堂
Lesen Sie 幻術天魔太郎 (げんじゅつてんまたろう) von 野村 胡堂 (のむらこどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 45.616 Zeichen · 90 Bildschirme
かごの前につっ立って片アブミをはずしてあいさつしたのは、老臣大久保彦左ヱ門忠教でした。このとき、彦左ヱ門七十九歳、白髪頭にトンボほどの小さいマゲ、麻裃、一丈二尺朱ぬりの槍をついて、シワだらけのくせに、気力だけは若い武士にも負けぬいきおいがあります。
「お、彦左か、これはなんとしたことじゃ」
家光はかごの中からこたえました。
「火のないところに火のあるのは、魔術か妖術か、こどもだましの手品でござります。はばかりながら、かく申す彦左ヱ門みんごとふみ消してごらんにいれます」
「では、たのむぞ、彦左」
「わが君には、しずかにそれにてごらんくだされ。――やあやあ怪しき術をおこなう虫ケラども、耳をかっぽじって、よっくきけよ。かく申すそれがしは、トビの巣文字山の初陣より、かっておくれをとらぬ、大久保彦左ヱ門忠教――」
天下の三大音といわれた彦左ヱ門、馬上槍をしごいて、名のりをあげると、ゆくての火焔めがけて、ま一文字にのりいれたのです。
火焔と見せたのは、もとより天魔太郎の幻術で、人間の目はだませても、馬の目をだますわけにはゆきません。彦左ヱ門朱ぬりの槍をめちゃめちゃにふりまわしながら、ほのおのまっただ中をつっきると、ほのおはパッと消えうせて、のこるはなにごともなかった橋とらんかんだけ。