Japanische Klassiker mit Furigana
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いくどめかのさいご
幾度目かの最期
久坂 葉子
Lesen Sie 幾度目かの最期 (いくどめかのさいご) von 久坂 葉子 (くさかようこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 59.103 Zeichen · 121 Bildschirme
注射します。今晩中に熱がとれます。それから、塗布剤持って来てますからおぬりなさい。二三日でなおります」
彼は断言的、命令的な言葉を、いちいち語尾をはっきりこれだけ云い終ると、すぐ注射の用意に取りかかる。銀色の注射のケースにうつる自分の顔をみながら私は悲しくてたまらない。(どうか、毎朝の私だと気づかれませんように)私はそう念じながら腕を出した。目をみはってぷくっと浮ぶ静脈をみる。黒いゴムの紐でしばられた腕に彼は針をつきさした。
「痛くない」
彼はそう云う。それは問いではなく暗示でもなく、痛くない筈であるという確信の言葉だった。私は咄嗟に反駁したくなったから、
「痛い!」
という。彼は又、
「痛くない」
という。今度は私が黙ってうなずいてしまう。塗布剤の用い方を、母と私に説明しているのを殆ど私はきかなかった。きけないぐらい悲しかったから。
彼は立ち、母は見送りに階下まで行った後の静かな床で、私は注射の跡を押えながらわざと自分を泣かせようとこころみた。全くの女学生趣味だと思いながら本当に泣いてしまった。母はすぐ上って来て、彼がN先生の下にいる外科医で名を笹田といい、この上に住んでいるのでN先生から頼まれてお寄りしたわけであると、私に告げた。