Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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あるさっかのやくび

或る作家の厄日

豊島 与志雄

Lesen Sie 或る作家の厄日 (あるさっかのやくび) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 10.284 Zeichen · 21 Bildschirme

Aozora Bunko

戸外に虫の声がする。

「どうした。」

突然の人声だ。振り向くと、襖を少し開いて、あやめ模様の白っぽい着物の女が坐っている。

「先生。」

か細い声で呼ぶ。虚を突かれて、おれはぞっと総毛立ち、顔から血が引いたのを自分でも感じた。

「先生。」

さよ子だった。

「お食事は、どう致しましょう。」

つめた息を吸って、平静に戻るのに、ちと時間がかかった。

「食事はいらんと言っておいたんだが、君たちは。」

「お待ちしておりました。」

「ばかだな。早くすますんだよ。」

へんに腹が立った。なぜかおずおずしているさよ子を呼んで、小皿のもの、たたみ鰯だのすずめ焼だのみず貝だの、なまぐさ物をすべて持ってゆかせることにした。おれにはもうそんな物はいらないんだ。ただ腹立たしかった。

「卑屈な気持ちを持っちゃいかんよ。自主自立、これが文学には最も大切だ。」

おれの顔をぼんやり見上げてる彼女に、尋ねてみた。

「先達ての下山総裁事件ね、あれを君はどう思うんだい。」

彼女はぽかんとして、考えてみようともしないらしい。

「あの自動車の運転手だ。下山さんが三越にはいって、ちょっと五分間ばかりと言ったのを、朝の九時半から午後の五時まで、七時間半もぼんやり待つということが、あるものか。