Japanische Klassiker mit Furigana
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あるおとこのしゅき
或る男の手記
豊島 与志雄
Lesen Sie 或る男の手記 (あるおとこのしゅき) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 43.279 Zeichen · 86 Bildschirme
「河野さんの家に帰るわ。」
それきり私達は切符を買うまで黙っていた。電車に乗っても、彼女は窓の外の景色を一心に眺めていた。私もいつしか外の景色に見入ってしまった。
そして、私にとっては長い間のような気がするが、実は僅かに昨日の午後からの短い間に、事情は他の方面で、退引ならない方へ進展してしまった。
私は光子と別れてから、その半日を会社で過し、午後は暫く街路を歩いてみたが、やはり何だか気にかかって、三時頃家に帰ってきた。そして、妻に向ってこんな風に云った。
「昨日は会社の用で急に横須賀に行くことになって、つい知らせる隙がなかったものだから……。電話がないとほんとに不便だね。」
実際私は、会社の用で時折横須賀へ行って一泊してくることがあった。俊子は変な顔付で――それも私の思いなしかも知れないが――私の方を見ていたが、やがて、会社のことなんかどうでもいいという風で、困ったことが出来たのでお帰りを待っていた、と云い出した。けれど私も、家のことなんかどうでもいいという風で、着物を着換え初めた。所が光子とか松本とかいう言葉に、忽ち注意を惹かれてしまった。
俊子の話を概略するとこうだった――昨日の朝、松本が慌しく駆け込んできた。