Japanische Klassiker mit Furigana
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みすじまちかいわい
斎藤茂吉随筆集
斎藤 茂吉
Lesen Sie 斎藤茂吉随筆集 (みすじまちかいわい) von 斎藤 茂吉 (さいとうもきち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 17.559 Zeichen · 37 Bildschirme
仏蘭西から英吉利に渡り、英吉利から和蘭、独逸、瑞西とまわって伊太利のミラノに来た。ミラノに来たのは僕は二度目である、そうして歩いているうちに妻はいつのまにか懐妊していた。僕はミラノでレオナルド・ダ・ヴィンチ一派の絵画をもう一遍見直そうとして、旅疲のしている妻を引張りまわしながら丸三日を過ごした。妻は美術館などに入っても、絵画などはどうでもいいというような顔付をして茫然としていることが多かった。けれども僕はそんなことにはかまっていられないような気がして精を出して見て歩いた。
十月二日にミラノを立ってヴェネチアに向った。仏蘭西を出てからもはや二月ほどになった。汽車は急行で、東方へ向って驀地に走っている。しばらくの間無言でいた妻は、その時何の前置もなしに僕にむいた。そして二人はこういう会話をした。
「日本の梅干ねえ」
「何だ」
「おいしいわねえ」
会話はそのまま途切れてしまったけれども、僕はその時、今までに経験しなかった一つの感情を経験したのであった。夫婦なんぞというものは一生のうちに一度ぐらいは誰でもこういう感情を経験するものかも知れぬ。あるいは運のいい夫婦はしじゅう経験しているのかも知れぬ。