Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

Lesen Sie 新書太閤記 (しんしょたいこうき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 200.320 Zeichen · 398 Bildschirme

Aozora Bunko

「土屋。土屋右衛門。奥方を馬の背へ抱き乗せてやってくれい」

「はい」

側衆の土屋右衛門が、畏まって、夫人の側へ寄りかけると、夫人はにわかに、涙をはらって、良人の勝頼へ云った。

「まことの侍に、二君はないように、いちど嫁いだ女子には二度と帰る家などあろう筈はありません。ここからひとり立ち去って、小田原へ帰れとは、お慈悲には似ても、妻の身として聴くには、余りにお情けないおことばにござります。……わたくしはここを動きませぬ。御最期までお側におります。そしてその先までもお供をさせていただきまする」

そのときまた、秋山紀伊守の家来たちが、

「敵は間近です」

「ふもとの寺近くまで来ております」

と、眉に火がつくように注進して来た。

勝頼の夫人は、侍女たちの悲嘆を叱って、

「嘆いてばかりいる時ではない。用意のものをこれへ備えてたも」

と、きつくいった。

まだ二十歳にも足らぬこの夫人は、最期がせまるほど端正を失わずまた水のように冷静であった。

かえって、良人の勝頼こそ、その夫人の落着きぶりに、たしなめられる心地がした。

「はい……」

と立った侍女たちは、素焼の盃と銚子とを取り揃えて来て、勝頼父子のまえにおいた。