Japanische Klassiker mit Furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme
矢代は胸の下が冷えて空虚になるのを感じた。日没の光りに山山の頂きはほの明るく照りわたっていた。その下を羊の鈴の音が交響しながら、それが谷谷に木魂して戻って来る倍の響きとなり、総立ち上る蚊の大群のように空中に渦巻いた。チロルの唄はその中を貫く一本の主旋律となって、羊の群れを高く低く呼び集めて近づくのだった。
「るくるくるくるく、るるるるるる――るくるくるくるく、るるるるるる――」
「まるで神さまを見ているようだわ。」
と千鶴子は小声で云うとまたぼんやり放心して下を見降ろした。まだ末の方で拡がり散っている羊の群れは、犬の声に緊めつけられつつ、新たな団塊となりさらに速度を早めて前の群団の中へ流れ込んだ。空の光は刻一刻薄らいで紫色に変っていった。羊の流れは地を這う霧のようにかすみながらも鈴の響だけますます大きく膨んで来ると、むっと熱気に似た獣類の臭いが舞い襲って来た。
「凄いなア。」
と思わず云った矢代の声も、もう真下に追った犬の吠え声に聞えなかった。ひたひたと漣のよせるような速度で下る羊の河は、氷河とは反対に峡間を流れ曲り、羊飼の唄を山の斜面の彼方へ押し流して進んだ。