Japanische Klassiker mit Furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme
何んでもないことだもの。どうして僕の云うこと無理があるかな。そんなら取り消しだが、ただ困ったときには困った工夫が僕にあったって、そんなことまで悪い筈があるものか。じゃ帰ろう。また会いますよ。」
久慈は立ち上って千鶴子に手をさし出した。千鶴子は軽く久慈の手に触れ快活な声で、
「明日お昼ごろお邪魔しましてよ。」
と云うと彼の後からドアを閉めた。早く明けるパリの夜がそろそろ白みかかって来た。久慈は自分のホテルの方へ歩きながら、さっぱり洗われたように気持ちが穏やかになって来るのを感じた。
「何んだか俺は云って来たが、しかし、俺の悩んでいるのは女のことじゃない。お袋に代るものがほしいのだ。ただそれだけだ。俺の云ったことはみなどうだって、あれはもういい。」
久慈はそう思うと真紀子も千鶴子も暫くは想いの中から飛び去って、頭の振動を算えるように響く靴の音だけ耳に聞えて来た。
久慈は正午近く眼を醒した。顔を洗いながら昨夜の出来事を思い出してみても、昨日と今日とは日が違うごとく何んの怖れの実感も感じなかった。歯磨楊子を啣え窓から通りを見降ろす眼に日光が強く射した。こんな天気の良い日にもし悩んでいるものがあるならそれは全く気の毒だと思い、昨夜はそれが自分だったのかと思うと、数時間の睡眠で人生はこんなに変るものかと驚くのだった。