Japanische Klassiker mit Furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme
――あの子は自分の好きな物じゃないともう何も気がつかないんでございますよ。癖が悪うござんしてね。」と千鶴子の母は、もうこのときは知人の母の謙遜さが見えへだてもとれた眼差だった。
「そんなこと、もう御存知でしてよお母さん。」と千鶴子はドアの傍から云った。
「あら、まだあなた聞いていたの。」
「早くお美味しいもの、持って来なさい。」と塩野は無遠慮な冗談を大きくドアの方に対って云った。この塩野の大声は、それまで客間に滞りがちだった窮屈さを一気に揉みほごして成功した。
「食べ物のことで思い出しましたが、パリの罷業のときは千鶴子さんと二人で、コーヒー一ぱいを飲むのに、随分苦労をさせられたことがありました。どこの店も戸を閉めていて、飲みも食べも出来ないんですよ。お蔭で胃が少し良くなりましたが、一番ひどい目に会ったのは僕らのようです。」
まったくこんな無意味なことを矢代が千鶴子の母に云うのにも、相当の骨折りだった。先ず何より意味など持たぬことをと思い、食物の話などを選んだのだったが、急に千鶴子の母は、
「胃がお悪いんですの。」
とびくりとした表情でひとり笑わず、問い質すように矢代を見た。