Japanische Klassiker mit Furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Lesen Sie 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.813 Zeichen · 302 Bildschirme
「母さん――母さん――母さん――母さん――」
私は自分の頭脳(あたま)の中であの声を聞くように成った。同時に病院へ行けば最早お房はイケナイかしらんと、思いやった。須田町で本郷行に乗換えた。万世(まんせい)橋のところに立つ凱旋門(がいせんもん)は光って見えたかと思うと復た闇に隠れた。
暗い時計台の下あたりには往来する人もなかった。私は門の外から呼んで見た。その時、門番が起きて来て、私の名を呼んで、それから厳しい門を開けてくれた。
「どうして私のことを御存じでしたか」と私は嬉しさのあまりに聞いて見た。
「ナニ、断りが有りましたからネ」と門番が言った。
小児科の入口も堅く閉っていた。内の方で当番らしい女の声がして、やがて戸が開いた。分室へ通う廊下のあたりは、亜鉛葺(トタンぶき)の屋根にそそぐ雨が寂しい思を与えた。看護婦室の前で年をとった看護婦に逢ったきり、他には誰にも逢わなかった。やがて私は長い廊下を突当ったところにある室(へや)の前に立った。
「駄目かナ」
と戸の外で思った。
妙に私は手が震えた。一目に子供の運命が見られるような気がして、可恐(おそろ)しくて、戸が押せなかった。