Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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きゅうしゅじん

旧主人・芽生

島崎 藤村

Lesen Sie 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.813 Zeichen · 302 Bildschirme

Aozora Bunko

まだ他に部屋を仕切って借りている人達もあると見え、一方の破れた襖の方からは貧しい話し声がボソボソボソボソ聞える。旅の行李の側に床を敷いてからも、場所の違ったのと、鼠の騒ぐのとで、高瀬はよく寝就かれなかった。彼の心はまだ半ば東京の方にあった。自分のために心配していてくれる人達のことなどが、夜遅くまで、彼の胸を往来した。

朝早く高瀬は屋外に出て山を望んだ。遠い山々にはまだ白雪の残ったところも有ったが、浅間あたりは最早すっかり溶けて、牙歯のような山続きから、陰影の多い谷々、高い崩壊の跡などまで顕われていた。朝の光を帯びた、淡い煙のような雲も山巓のところに浮んでいた。都会から疲れて来た高瀬には、山そのものが先ず活気と刺激とを与えてくれた。彼は清い鋭い山の空気を饑えた肺の底までも呼吸した。

塾で新学年の稽古が始まる日には、高瀬は知らない人達に逢うという心を持って、庭伝いに桜井先生を誘いに行った。早起の先生は時間を待ち切れないで疾くに家を出た。裏庭には奥さんだけ居て、主婦らしく畠を見廻っていた。

「でも、高瀬さん、田舎ですね。後の方にある桑畠まで皆なこの屋敷に附いてるんですよ――」