Japanische Klassiker mit Furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Lesen Sie 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.813 Zeichen · 302 Bildschirme
多情も熟すれば美しい。
人間の価値はまるで転倒して了った。彼はおせんと別れるより外に仕方が無かったことを哀しく思った。何故初めからもっと大切にすることは出来なかったろうと思って見た。
マルの毛を撫でながら、こんな考えに沈んでいるところへ、律義顔な婆さんが勝手の方から廊下を廻ってやって来た。
大塚さんの親戚からと言って、春らしい到来物が着いた。青々とした笹の葉の上には、まだ生きているような鰈が幾尾かあった。それを見せに来た。婆さんは大きな皿を手に持ったまま、大塚さんの顔を眺めて、
「旦那様は御塩焼の方が宜しゅう御座いますか。只今は誠に御魚の少い時ですから、この鰈はめずらしゅう御座いますよ。鰹に鰆なぞはまだ出たばかりで御座いますよ」
こう言って主人の悦ぶ容子を見ようとした。
何かおせんの着物で残っているものはないか。こう大塚さんは何気なく婆さんに尋ねた。
婆さんは不思議そうに、
「奥様の御召物で御座いますか。何一つ御残し遊ばした物は御座いません。何から何まで御生家の方へ御送りしたんですもの……何物も置かない方が好いなんと仰って……そりゃ、旦那様、御寝衣まで後で私が御洗濯しまして、御蒲団やなんかと一緒に御送りいたしました」