Japanische Klassiker mit Furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Lesen Sie 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.813 Zeichen · 302 Bildschirme
仄白い夜の雪ばかりで誰の影も見えません。暫く佇立んでおりましたが、「晴れたな」と口の中で言って、二歩三歩外へ履出して見ると、ぱらぱら冷いのが襟首のところへ被る。
「あれ、降ってるのか」と私は軒下へ退いて、思わず髪を撫でました。暗くはあるが、低い霧のように灰色に見えるのは、微い雪の降るのでした。往来の向で道を照して行く人の小提灯が、積った雪に映りまして、その光が花やかに明く見えるばかり。
私は戸を閉めて暫時庭に立っていますと、外からコトコトと戸を叩く音がする。下駄の雪を落す音が聞える。一旦閉めた戸を復た開けて、「誰方」と声を掛けて見ました。誰かと思えば――美しい曲者。
「奥様、桜井さんがいらっしゃいましたよ」
と、早速申上に参りましたら、奥様は不意を打たれて、耳の根元から襟首までも真紅になさいました。物の蔭に逃隠れまして、急には御見えにもなりませんのです。この雪ですから、歯医者の外套は少許払った位で落ちません。それを脱げば着物の裾は濡れておりました。いつもの様に御履物を隠して、奥様の御部屋へ御案内をしますと、男はがたがたと震えておりましたのです。
先ず濡れたものを脱がせて、奥様は男に御自分の裾の長い御召物を出して着せました。