Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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きゅうしゅじん

旧主人・芽生

島崎 藤村

Lesen Sie 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.813 Zeichen · 302 Bildschirme

Aozora Bunko

五

私の心を占領してるのは……貴方、貴方ばかりです。ああ、昔の友人と競争した時代から見ると、私も余程これで変ったんですなア」

と言って、稍暫時奥様の御顔を見つめておりましたが、やがて、思付いたように立上りました。見れば今まで着ていた裾の長い糸織を脱いで、自分の着物に着替えようとしましたから、奥様も不思議顔に、

「何故、それを着ていらっしゃらないんですか」

「なんだか私は……こう急に気分が悪く成りましたから、今夜は帰ります」

「お帰りなさるたッて、このまあ雪に……。貴方の着物は未だ乾かないじゃ有ませんか」

「なあに、構いません。尻端を折れば大丈夫」

「まあ、真実に御帰りなさるんですか。それじゃ、あんまりですわ……」

歯医者は躊躇して、帽子を拈っておりましたが、やがて萎れて坐りました。

「無理に御留め申しませんから……もう少し居て下さいな」

「然し、またあんまり遅くなると……」

「遅くなったって好じゃありませんか。まあもうすこし」

「そう仰らずに、今夜だけは帰して下さい」

「そんなら、もう二十分」

五

誰言うとなく、いつ伝わるともなく、奥様の浮名が立ちました。万御注進の髪結が煙草を呑散した揚句、それとなく匂わせて笑って帰りました時には、今まで気を許していらしった奥様も考えて、薄気味悪く思うようになりました。