Japanische Klassiker mit Furigana
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はるいくたび
春いくたび
山本 周五郎
Lesen Sie 春いくたび (はるいくたび) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 70.094 Zeichen · 142 Bildschirme
四
見えさえしたのだ。
香苗は泣いた。別れて以来いちども泣いたこともない香苗が、そのまま泣き死んでしまうかと思われるほど激しく泣いた。
……そして、一家が甲府の町へ移って行く日、彼女は代々の檀那寺である桂円寺に入って髪をおろした。
香苗の涙の日が始まった。
四
春いくたび。……秋いくたび。
高原の村にも、年々の世の移り変りは伝わって来る、江戸が東京となり皇居が御東遷になった。諸藩が廃されて府県が置かれた。佐賀の乱が起り、薩摩の乱が起った。人々はもう髷を切っていたし、刀を差すことも禁ぜられた。マンテルを着た役人や、帽子を冠った人も珍しがられなくなり、やがて新聞がこの高原の村々にも配られだした。
香苗は桂円寺にはいなかった。
いつかの日、信之助と別れた二岐道の畔に、小さな草庵を建て、朝夕を静かな看経に送り迎えしていた。……ときおり彼女の頬には涙の跡があったけれど、眉にも眼許にも、今は心の落着いた静かさが溢れている。たとい少しばかり愁いと哀しみの色が現れたとしても、却ってそれは慈悲の光を加えるとしか見えなかった。
清国との戦争が布告されたとき、香苗は高原から下りて、街道の町はずれにささやかながら一棟の救護院を建てた。