Japanische Klassiker mit Furigana
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はるいくたび
春いくたび
山本 周五郎
Lesen Sie 春いくたび (はるいくたび) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 70.094 Zeichen · 142 Bildschirme
……彼の右胸にある弾痕が、自分の命を助けて呉れた記念である。……彼は尋ね人があるからと云って自分の許を去ったが、不自由な身だから、若し其地で困っているようなら是非面倒をみて貰いたい、此処に僅かながら金を封入する。
――そう書いた文面の末に、彼はもう自分の名も忘れているが、本名は清水信之助と云う者である。
と筆太に認めてあった。
「ああ、……」
月心尼は苦しげな声をあげた。……そしてその声よりも早く、彼女は立って、ふところから古びた紙包を取出した。
辛夷の花の包である。
月心尼は草庵を出た。走るまいと勉めたけれど、いつか気付くと走っていた。なにも思わず、なにも見えなかった。ただ足に任せて道を急いだ。
「ええあの御病人は、……」
四、五日見えなかった月心尼を迎えて、世話役の老婆は静かに答えた、「……ゆうべ、さようです、ゆうべ暗くなってから、ひょいと向うへ出掛けておいでなされましたですよ」
「…………」
「さようです、ひょいと行っておしまいになりましたですよ、誰かあの人を待っているからと仰有いましてね。……月心さま、ですからもう一人も此処には居りません、この救護院はじまって以来のことでございますが、一人もいなくなりましたですよ」