Japanische Klassiker mit Furigana
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しゅんせつ
春雪
久生 十蘭
Lesen Sie 春雪 (しゅんせつ) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 11.672 Zeichen · 23 Bildschirme
三
柚子が死んでから、手箱の整理をしていると、手帳式の薄手な日記帳が出てきた。柚子の日記というのは、ふしぎなもので、その日の天気のほか、なにも書いていない。それも、ごく単純に、晴、雨と二つの表現しかない。まれに、曇後晴というのが見えるだけである。
日記は、二月六日にはじまって、翌年の三月で終っているが、池田が記憶している天気と、齟齬しているところが多い。たとえば、九月四日、晴とあるが、その日は朝から土砂降りで、予定した試乗を延期した。十月十二日、雨とあるが、この日は長女の誕生日で、ホテルのグリルで、かたちばかりの晩餐をしたので、よくおぼえている。この日は、一日中、よく晴れていた。
察しるところ、晴とか雨とかいうのは、天気のことでなくて、柚子の心おぼえのようなものだったのだろう。解くべき鍵もないので、疑問のままになっていたが、伊沢の思わせぶりないいまわしを聞いているうちに、ふと、それを思いだした。
三
煤緑の塘松のうえに、わずかばかり消え残った春の雪に陽がさしかけ、濠に鴨が群れて、ゆらゆらに揺れている。
ラウンジの窓から、池田は、さざ波の立つ濠の水の色をながめていたが、伊沢が知っていて、自分の知らない柚子の過去があるらしいと思うと、愉快でなくなった。