Japanische Klassiker mit Furigana
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おうかをよめるく
杉田久女随筆集
杉田 久女
Lesen Sie 杉田久女随筆集 (おうかをよめるく) von 杉田 久女 (すぎたひさじょ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 16.273 Zeichen · 33 Bildschirme
南へ下る私共の船と、鹿児島へ去る長兄を乗せた船とは殆ど同時刻に出帆すべく灰色の波に太い煤煙を吐いていた。次兄はたった孤りぼっち此島に居残るのである。
送られる人、送る人、骨肉三ヶ所にちりぢりばらばらになるのである。二人の兄の為めには此日が実に病弟を見る最後の日であった。新領土と言えば人喰い鬼が横行している様におもわれている頃だったので、見送りに来た多数の人々も皆しんから別れを惜しんでくださった。船が碇を巻き上げ、小舟の次兄の姿が次第次第に小さく成って行く時、幼い私や弟は泣き出した……
真夜中船が八重山沖を過ぎる頃は弟の病状も険悪になって来た。その上船火事が起って大騒ぎだった。大洋上に出た船、而かも真夜中の闇い潮の中で船火事などの起った場合の心細さ絶望的な悲しみは到底筆につくしがたい。
ジャンジャンなる警鐘の中にいて、病弟をしっかり抱いた母はすこしも取り乱した様もなく、色を失った姉と私とを膝下にまねきよせて、一心に神仏を祷っているらしかった。
が幸いに火事は或る一室の天井やベッドを焦したのみで大事に至らず、病弟の容体も折合って、三昼夜半の後には新領土の一角へついたのである。