Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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さくらのみのじゅくするとき

桜の実の熟する時

島崎 藤村

Lesen Sie 桜の実の熟する時 (さくらのみのじゅくするとき) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 111.569 Zeichen · 222 Bildschirme

Aozora Bunko

彼は恩人からも、身内のものからも、友達からも、自分の職業からも離れて来た。その時は全く自分独りの旅のすがたを見つけた。日頃親しい人達は誰一人傍に居なかった。彼は石に腰掛けながら、肩から卸した風呂敷包をその石の側に置いて、熱い涙を流した。

捨吉は東海道を下って行った。こうして始まった流浪が進んで行ったら終にはどうなるかというようなことは全く彼には考えられなかった。鎌倉から興津あたりまで歩いて行った。旧暦で正月を迎えようとする村々を通過ぎた時は、途中で復た煤掃の音を聞いた。一日々々と捨吉は温暖い東海道の日あたりの中へ出て行った。どうかするとその日あたりの中に咲く名も知らない花を見つけて、せめて路傍の草花から旅人と呼ばるることを楽んだ。

誰か後方から追いかけて来るものがある。逃れ行く自分を捉えに来るものがある。この恐怖、東京の方の空を振返る度に襲って来るこの恐怖は、余計に捨吉の足を急がせた。小高い眺望の好い位置にある寺院の境内が、遠く光る青い海が、石垣の下に見える街道風の人家の屋根が、彼の眼に映った。興津の清見寺だ。そこには古い本堂の横手に、丁度人体をこころもち小さくした程の大きさを見せた青苔の蒸した五百羅漢の石像があった。