Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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さくらのみのじゅくするとき

桜の実の熟する時

島崎 藤村

Lesen Sie 桜の実の熟する時 (さくらのみのじゅくするとき) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 111.569 Zeichen · 222 Bildschirme

Aozora Bunko

まだ捨吉は上り框へ腰掛けたなり素足のままでいて、自分の本箱から取出した愛読の書籍を膝の上に載せ、しきりとそれに読み耽っていた。見ると細君が来て背後に立っていたので、捨吉はきまり悪げに書籍を閉じ、すこし顔を紅めた。

病後の細君が腰を延ばし気味に玄関から茶の間と静かに家の内を歩いているその後姿を捨吉はめずらしいことのように思い眺めた。やがて格子戸の外に置いた手桶を提げて井戸の方へ行こうとした。ふと、樽屋の内儀さんが娘を連れながら、表門の戸を開けて入って来るのに逢った。

「捨さん、何時御帰んなすったの。学校はもう御休みなんですか」

と河岸の内儀さんは言葉を掛けた。女ながらに芝居道の方では可成幅を利かせている人だ。娘も捨吉に会釈して、母親の後から、勝手口の方へ通った。一度捨吉は田辺の細君の口から、「捨さんは養子には貰えない方なんですか」と樽屋の内儀さんが尋ねたという話を聞いてから、妙にこの人達に逢うのが気に成った。

捨吉は井戸端で足を拭いてから、手桶の水を提げ、台所から奥座敷と土蔵の間を廂間の方へ通り抜けた。田辺の屋敷に附いた裏の空地が木戸の外にある。そこが一寸花畠のように成っている。