Japanische Klassiker mit Furigana
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もりのえ
森の絵
寺田 寅彦
Lesen Sie 森の絵 (もりのえ) von 寺田 寅彦 (てらだとらひこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 1.921 Zeichen · 4 Bildschirme
にきめた。粗末な額縁をはめてもらってその上を大事に新聞で包んで店を出た時は、心臓が高い音を立てて踊っていた。
帰り途に旧城の後ろを通った。御城の杉の梢は丁度この絵と同じようなさびた色をして、お濠の石崖の上には葉をふるうた椋の大木が、枯菰の中のつめたい水に影を落している。濠に隣った牧牛舎の柵の中には親牛と小牛が四、五頭、愉快そうにからだを横にゆすってはねている。自分もなんだか嬉しくなって口笛をピュッ/\と鳴らしながら飛ぶようにして帰った。
森の絵が引出す記憶には限りがない。竪一尺横一尺五寸の粗末な額縁の中にはあらゆる幼時の美しい幻が畳み込まれていて、折にふれては画面に浮出る。現世の故郷はうつり変っても画の中に写る二十年の昔はさながらに美しい。外の記憶がうすれて来る程、森の絵の記憶は鮮やかになって来る。
他郷に漂浪してもこの絵だけは捨てずに持って来た。額縁も古ぼけ、紙も大分煤けたようだが、「森の絵」はいつでも新しい。(明治四十年一月『ホトトギス』)