Japanische Klassiker mit Furigana
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はし
橋
池谷 信三郎
Lesen Sie 橋 (はし) von 池谷 信三郎 (いけたにしんざぶろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 18.108 Zeichen · 37 Bildschirme
わーっ! という叫び声。一時に立上る観客の頭、無数の瞳が上を見上げた。舞台では、今死んだはずのレンスキイがむっくりと飛び上った。音楽がはたと止った。客席のシャンドリエに灯火が入った。叫び声!
シャンドリエの光が大きく彼の眼の中で揺れ始めた。いきなり力強い腕が彼の肩を掴んだ。ピントの外れた彼の瞳の中に、真蒼なシイカの顔が浮んでいた。広く瞠いた瞳の中から、彼女の感情が皆んな消えて行ってしまったように、無表情な彼女の顔。白々しい仮面のような彼女の顔。――彼はただ、彼女が、今、観客席の床の上に一箇所の斑点のように、圧しつぶされてしまったあの男に対して、何んらの感情も持ってはいなかったことを知った。そして、彼女のために人を殺したこの自分に対して、憎悪さえも感じていない彼女を見た。
7
街路樹の新芽が眼に見えて青くなり、都会の空に香わしい春の匂いが漂ってきた。松の花粉を浴びた女学生の一群が、ゆえもなく興奮しきって、大きな邸宅の塀の下を、明るく笑いながら帰って行った。もう春だわね、と言ってそのうちの一人が、ダルクローズのように思いきって両手を上げ、深呼吸をした拍子に、空中に幾万となく数知れず浮游していた蚊を、鼻の中に吸いこんでしまった。