Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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はし

橋

池谷 信三郎

Lesen Sie 橋 (はし) von 池谷 信三郎 (いけたにしんざぶろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 18.108 Zeichen · 37 Bildschirme

Aozora Bunko

1

人と別れた瞳のように、水を含んだ灰色の空を、大きく環を描きながら、伝書鳩の群が新聞社の上空を散歩していた。煙が低く空を這って、生活の流れの上に溶けていた。

黄昏が街の灯火に光りを添えながら、露路の末まで浸みて行った。

雪解けの日の夕暮。――都会は靄の底に沈み、高い建物の輪郭が空の中に消えたころ、上層の窓にともされた灯が、霧の夜の灯台のように瞬いていた。

果物屋の店の中は一面に曇った硝子の壁にとり囲まれ、彼が毛糸の襟巻の端で、何んの気なしにSと大きく頭文字を拭きとったら、ひょっこり靄の中から蜜柑とポンカンが現われた。女の笑顔が蜜柑の後ろで拗ねていた。彼が硝子の戸を押してはいって行くと、女はつんとして、ナプキンの紙で拵えた人形に燐寸の火をつけていた。人形は燃えながら、灰皿の中に崩れ落ちて行った。燐寸の箱が粉々に卓子の上に散らかっていた。

――遅かった。

――……

――どうかしたの?

――……

――クリイムがついていますよ、口の廻りに。

――そう?

――僕は窓を見ていると、あれが人間の感情を浪漫的にする麗しい象徴だと思うのです。

――そう?

――今も人のうようよと吐きだされる会社の門を、僕もその一人となって吐きだされてきたのです。