Japanische Klassiker mit Furigana
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はるはばしゃにのって
機械・春は馬車に乗って
横光 利一
Lesen Sie 機械・春は馬車に乗って (はるはばしゃにのって) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 77.492 Zeichen · 156 Bildschirme
彼は妻の枕元の籐椅子(とうい す )に腰を下ろすと、彼女の顔を更(あらた)めて見覚えて置くようにじっと見た。
――もう直(す)ぐ、二人の間の扉は閉められるのだ。
――しかし、彼女も俺も、もうどちらもお互に与えるものは与えてしまった。今は残っているものは何物もない。
その日から、彼は彼女の云うままに機械のように動き出した。そうして、彼は、それが彼女に与える最後の餞別(せんべつ)だと思っていた。
或る日、妻はひどく苦しんだ後で彼に云った。
「ね、あなた、今度モルヒネを買って来てよ」
「どうするんだね」
「あたし、飲むの、モルヒネを飲むと、もう眼が覚めずにこのままずっと眠って了うんですって」
「つまり、死ぬことかい?」
「ええ、あたし、死ぬことなんか一寸も恐(こわ)かないわ。もう死んだら、どんなにいいかしれないわ」
「お前も、いつの間にか豪(えら)くなったものだね。そこまで行けば、もう人間もいつ死んだって大丈夫だ」
「でも、あたしね、あなたに済まないと思うのよ。あなたを苦しめてばっかりいたんですもの。御免なさいな」
「うむ」と彼は云った。
「あたし、あなたのお心はそりゃよく分っているの。