Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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すいごういぶん

水郷異聞

田中 貢太郎

Lesen Sie 水郷異聞 (すいごういぶん) von 田中 貢太郎 (たなかこうたろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 17.516 Zeichen · 36 Bildschirme

Aozora Bunko

そこには古い船板のようなものを斜に水の上に垂らしかけた桟橋があって、それが水といっしょになったところに小さな鼠色に見えるボートが浮いていた。

「あれでございますよ、滑稽でしょう」

「面白いですな」

省三は桟を打って滑らないようにしたその船板の上を駒下駄で踏んでボートの方へおりて往った。船板はゆらゆらとしなえて動いた。ボートは赤いしごきのようなもので繋いであった。

「そのままずっとお乗りになって、艫へお懸けくださいまし」

省三はボートに深い経験はないが、それでも女に漕がして見ていられないと思った。

「あなたが前へお乗りなさい、私が漕ぎましょう」

「いいえ、このボートは、他の方では駄目ですから、私が漕ぎます、どうかお乗りくださいまし」

省三は女の云うとおりにして駒下駄を脱いで、それを右の手に持ちやっとこさと乗ったが、乗りながら舟が揺れるだろうと思って、用心して体の平均をとったが、舟は案外動かなかった。

続いて女が胴の間に乗り移った。その拍子に女の体にしみた香水の香が省三の魂をこそぐるように匂うた。省三は艫へ腰をおろしたところであった。

女の左右の手に持った二本の櫂がちらちらと動いて、ボートは鉛色の水の上を滑りだした。