Japanische Klassiker mit Furigana
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すいごういぶん
水郷異聞
田中 貢太郎
Lesen Sie 水郷異聞 (すいごういぶん) von 田中 貢太郎 (たなかこうたろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 17.516 Zeichen · 36 Bildschirme
※(ローマ数字2、1-13-22)
そして、つまらない過去のことは考えまいと思って飯がなくなるとすぐ茶を命じた。
「もう一つ如何でございます」
「もうたくさん」
「では、お茶を」
婢は茶器に手を触れた。
※(ローマ数字2、1-13-22)
けたたましい汽笛の音が静な空気を顫わして聞えて来た。それはその湖の縁から縁を航海する巡航船の汽笛であった。省三は婢が膳をさげて往く時に新らしくしてくれた茶を啜っていたが、彼の耳にはもうその音は聞えなかった。彼は十年前の自己の暗い影を耐えられない自責の思いで見詰めていた。
それは己が私立大学を卒業して、新進の評論家として傍ら詩作をやって世間から認められだした比の姿であった。その時も彼はやはり今日のようにこの土地の文学青年から招待せられて講演に来たが、いっしょに来た二人の仲間はその晩の汽車で帰って往ったにもかかわらず、彼一人はかねて憧憬していたこの水郷の趣を見るつもりで一人残っていた。
それは初夏のもの悩ましい壮い男の心を漂渺の界に誘うて往く夜であった。その時は水際に近い旅館へわざわざ泊っていた。その旅館の裏門口ではやはり今晩のように巡航船の汽笛の音が煩く聞えた。