Japanische Klassiker mit Furigana
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「ちんもく」のはなし
「沈黙」の話
豊島 与志雄
Lesen Sie 「沈黙」の話 (「ちんもく」のはなし) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 6.184 Zeichen · 13 Bildschirme
老僧はその前に、足を組み腕を組んで、不動の祈願のうちに、じっと娘の姿を凝視している。煩悩即菩提の所業である。
昼間は薄明、夜間は暗黒、月の夜は蒼白い微光がさす。そして巨巖に圧せられた静寂が、洞窟内に常住淀んでいる。娘は一言も口を利かない。既に抵抗力を失ったのか、或は一身をあげて承諾したのか。老僧の視線の前に一切を曝している。老僧ももはや、言語を絶した沈黙のうちにはいっている。娘を凝視するその眼から、一種の怪光が発散する。その怪光が、彼と彼女との肉体を繋ぎ、彼の魂から彼女の魂へと、じかに霊気が流れる。彼女の魂はそれを受け容れる。有を無に還元した怪しい時間が、純粋持続を以て経過する。
かくて、幾日幾夜かを経た。老僧の両眼は次第に力を失って、その代りに、額の皺が次第に深まり、それが一の眼となって、他物は一切見ず、ひたすら女の方を見つめている。女はその眼に見入られながら、次第に生気を失い、蝋のような蒼白な不動に陥っている。そして見つめ見入られながら、二人は呼吸も次第に細ってゆく……。
程へて、その洞窟内に、二つの死体が発見された。一つは、痩せ細った老僧の死体で、額に大きな眼のある三つ目の、骨と皮ばかりのものだった。