Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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ぬまのほとり

沼のほとり

豊島 与志雄

Lesen Sie 沼のほとり (ぬまのほとり) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 7.788 Zeichen · 16 Bildschirme

Aozora Bunko

許して頂けますでしょうか。」

彼女は微笑しました。八重子は、感謝の言葉を洩らしかけて、涙ぐみました。

なにか、垣根が取れた気持で、八重子は彼女の名前を尋ねましたが、彼女は笑って、教えませんでした。八重子は自分の小さな名刺を差出しました。

佐伯八重子……その名前と処番地とを、女主人は、ふしぎなほど注意深く眺めていました。それからまたふしぎに、前よりは一層言葉少なになりました。

八重子はなにがしかの金を紙に包みかけましたが、さもしい気がしてやめました。そして、少女が朝早く買ってきてくれた切符の代と、少女への謝礼包みだけにとどめました。

「こんどまた、御礼に伺わせて頂きます。」

お辞儀をしながら、なぜともなく八重子は涙ぐみました。

女主人は門口まで見送りました。小川という表札だけを八重子は頭に留めました。少女が街道まで見送ってくれました。

霧はまだ深く、沼も見えなければ、あたりの様子もよく分りませんでした。それでも、中空は晴れてゆき、朝日の光が乳色に流れていました。

佐伯八重子は、沼のほとりの女を訪れるつもりで、進物などのことも内々考えていましたが、主人の亡い身にはいろいろ用事も多く、時局も激しく動いて、なかなかその意を果せませんでした。