Japanische Klassiker mit Furigana
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しせい
消えた受賞作 直木賞編
富田 常雄
Lesen Sie 消えた受賞作 直木賞編 (しせい) von 富田 常雄 (とみたつねお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 17.806 Zeichen · 36 Bildschirme
「どうしたね」
と、言った。着物をつけたミチに対する時には、彼の態度は父親の様な落ち着きがあった。ミチはその言葉に力を得て、五千円の金が夕方までに入用なことを早口に言った。
「勇阿兄いの博奕にはお前さんも苦労するな」
ぽつりと言い、彼は立ってミチに背中を見せて、棚の上に手を延ばし、小さな柳行李を引き降ろすと、腹の処で蓋を取り、札を勘定し始めた。銀行や郵便局の嫌いな彼は現金をいつも持って居た。三十年間の金の累積を彼はこの柳行李に納め続けたのである。ミチは藤三の薄く禿げかかった後頭部を見た。ランニングシャツにパンツ姿の樸訥な後姿に、ミチは堪らない憐憫を感じた。赤の他人の彼女になんの要求も持ち出さずに金銭を与える藤三に対して、強い負い目を覚えた。彼は彼女の肉体に憧憬を持って居るのに違いない。が、それすらも口に出し得ないで居るのだ。勇が怖いのだ。不憫さと、変形的な愛情が閃いた。十八歳の感情であった。
小さな姐御を気取ったポーズが見事に崩され、電気器具店の不自由ない娘として育ったその「娘」の真実な心情がこの一瞬に、彼女を有り来りの女に還元した。が、彼女のやり方だけは、鉄火な粗暴なものであった。