Japanische Klassiker mit Furigana
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せいしゅうかんそうわ
清修館挿話
林 芙美子
Lesen Sie 清修館挿話 (せいしゅうかんそうわ) von 林 芙美子 (はやしふみこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 10.062 Zeichen · 20 Bildschirme
「いゝえ後返りですが、僕はひまですから帰りましよう」
「済みませんわ、そんなにして戴いて……」
街路樹のすゞかけがさわさわと谷村さんの頭の上で鳴つていました。谷村さんは凉しい風に何気なく帽子を取りましたが、一夏中被つたカンカン帽子が黄に焼けて、一寸気恥ずかしい思いでありました。
その断髪の女のひとは、女給のようにも見えました。昨夜からのでありましよう、衿白粉が黒ずんで、顔が蒼くむくんでいました。それでも、眉も眼も唇もはつきりして、大変美しいひとで、谷村さんは、此の様な若い女のひとと歩くのは初めてでありますから、一寸まぶしい思いがいたしました。
「その風呂敷ひとつ僕が持つて上げましよう、お出しなさい」
「いゝえいゝんでございますよ」
女のひとの美しい指には青い静脈が浮いて、谷村さんには、それが大変いたいたしく見え、谷村さんは無理に、女のひとからその風呂敷包みの一ツを取つて持ちました。谷村さんに取つて、それはなぜか心楽しい事でありました。
「あゝあれですか?」
八幡様のダラダラ道を上ると、一番高いところに、清修館と云う、白ペンキの看板が出ていました。心長閑な谷村さんは、昨夜越して来たばかりのせいか、自分の泊つている下宿の名前さへも忘れていたのでありました。