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Japanische Klassiker mit Furigana

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しぶやけのしそ

渋谷家の始祖

宮本 百合子

Lesen Sie 渋谷家の始祖 (しぶやけのしそ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 68.023 Zeichen · 133 Bildschirme

Aozora Bunko

温い仕合わせな屋根の下から飛出して、暗い、ガランとした夜を歩きながら、正隆は泣いても足りない気分になっていた。

今まで、何か形の纏らない気体のように、ただ体中に瀰漫(びまん)していた、当のない敵意は、この思いがけない出来事に依って、俄に確かりと凝り固まったような心持もする。その、大きな、むかむかと膨れ上って、喉元まで窒め上げる敵意は、殆ど、生理的な苦痛を伴って、正隆の薄い骨と皮との間を、疼(うず)き廻るのである。

あのようなとっさの間にさえ、突掛って行く相手を、副島氏ではない、夫人に選ぶほどの、敏感を持っている正隆は、あの場合、多くの女性がそうである通り、直き涙を眼一杯に溜た夫人が、しおらしくうなだれでもしてくれたなら、結果は、遙かに容易なものであったことを知っていた。

そうすれば、彼はきっと、もっとしつこく、悪どい厭味は並べるだろうが、余後の気分は、遙に自由であり、且つ、淡い慰藉さえ感じ得たかも知れないのである。

然し、息子ほどの正隆にすねられて、他愛なく涙ぐむほど、副島夫人の経て来た、年は、単純なものではない。卑屈でもない。従って、一目(いちもく)も二目(にもく)も下に扱われたという、取消し難い自覚が、一層、正隆の敵意を助長させる。