Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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おぼるるもの

溺るるもの

豊島 与志雄

Lesen Sie 溺るるもの (おぼるるもの) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 17.690 Zeichen · 36 Bildschirme

Aozora Bunko

私の心は落付かなかった。

「馴染のお客さんが来たら、いつでも帰るから、そう云ってくれ。」

私はそんなことを繰返し云った。

「僕はただ君とこうして酒を飲んでおればそれでいいんだ。それだけだ。だが、君の方は、大事なお客をしくじってはいけない。ほんとにそう云ってくれ、馴染の人が来たら帰るから。」

いつのまにか真剣な調子になっていた。

「それ誰に云うこと、え、片岡さん。構やしない、あたしみんな帰しちまうわ。こないだも……知らなかったでしょう……馴染の人が来たのよ、あんたがここで酒を飲んでる時……。向うの室に通して、今丁度出かけるところで、迎いの人が来て待ってるって……本所の伯母さんとこに行くんだって……なにどうだっていいのよ。分って……。」

「だけど……。」

「いや、聞かない、聞かない。そんなこと、片岡さん、誰に向って云うの。」

「喜代ちゃん!」

彼女は返事をしなかった。

「喜代ちゃん!」

こちらも怒ったふりを見せようか、黙っててやろうか、擽ってやろうか、どうしてくれようか……とそんなことを考えるだけの間を置いて、彼女はふいに、皺も筋もない白臘のような顔を振向けた。