Japanische Klassiker mit Furigana
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こぞうのゆめ
潤一郎ラビリンスV――少年の王国
谷崎 潤一郎
Lesen Sie 潤一郎ラビリンスV――少年の王国 (こぞうのゆめ) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 71.989 Zeichen · 144 Bildschirme
」
と、瑠璃光は云った。そうして懐から昨夜の文殻を取り出しながら、
「まろは、此の世で苦労する代りに、後の世で安楽を享ける積りだと、千手どのに伝えておくれ。此の文を持って居ると却って心の迷いになる、どうぞ此れも、ついでに持って帰っておくれ。」
男が不思議そうに眼をしばだゝいて、何事をか云おうとして居る隙に、急いで瑠璃光は文殻を地に投げ捨てゝ、後をも見ずに宿房の方へ姿を消した。
かくて其の年の冬になった。
「もうお前も、来年は十五になる。千手丸の例もあるから、春になったら早々出家をするがよい。」
と、上人は瑠璃光に云った。
だが、一旦舊友の消息に依って、掻き乱されそうになった彼の心は、一時の情熱で無理に抑えては居たものゝ、決して長く平静を保っては居なかった。彼の胸にも、だん/\煩悩が曙の光を放ち始めた。嘗て千手丸を苦しめた妄想の意味が、彼にもよう/\分りかけて来た。彼も千手丸と同じように、女人の俤を夢に見たり、堂塔の諸菩薩の像に蠱惑を感ずる時代となった。どうかすると、彼は千手丸の手紙を返してしまったのが、惜しいような気持がした。ことによったら、また深草から使の男が来はしまいかと、何となく待たれる日もあった。