Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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みおつくし

澪標・落日の光景

外村 繁

Lesen Sie 澪標・落日の光景 (みおつくし) von 外村 繁 (とのむらしげる) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 130.889 Zeichen · 268 Bildschirme

Aozora Bunko

私はまるで悪夢の中にいるような、錯覚に陥ってしまう。私の手に残されている妻の絆纏だけが、辛うじて私をこの現実の中に踏み留まらせているかのようである。

漸く妻が診察室から出て来る。私は立ち上り、妻の肩に絆纏をかけてやる。私は歩きながら、妻に言う。

「偶然にね、上顎腫瘍だという奥さんが、僕の横に腰かけていてね」

「そう、ここには上顎腫瘍の方が沢山いますわ」

「目も少し悪いようだったが」

「そうよ、あれは直ぐ眼底に転移するらしいのよ。私のお向いの部屋にも一人おばあさんがいますわ」

「おいおい、嚇しちゃいけないよ。しかしね、素人の『らしい』話ね、つまり素人診断は、あんまり考えない方がいいようだよ」

「だって、癌の本にもちゃんと書いてあったわ」

「そうかね。ところで、今日も病院の食事を御馳走になろうかな。あれ、変においしいんだ」

「父さん、この頃、食欲ありますのね。嬉しいわ。じゃ、私は今日はてんぷらうどんにしよう」

「君だって、なかなか旺盛じゃないか」

しかし昼食を終っても、妻は口にこそ出さないが、私を帰したがらない。私は早く帰って、仕事をしなければならないとは思う。が、私も妻の病床から離れ難い。