Japanische Klassiker mit Furigana
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ぼくとうきだん
濹東綺譚
永井 荷風
Lesen Sie 濹東綺譚 (ぼくとうきだん) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 57.666 Zeichen · 114 Bildschirme
ラディオの物音を避けるために、わたくしは毎年夏になると夕飯もそこそこに、或時は夕飯も外で食うように、六時を合図にして家を出ることにしている。ラディオは家を出れば聞えないというわけではない。道端の人家や商店からは一段烈しい響が放たれているのであるが、電車や自動車の響と混淆して、市街一般の騒音となって聞えるので、書斎に孤坐している時にくらべると、歩いている時の方が却て気にならず、余程楽である。
「失踪」の草稿は梅雨があけると共にラディオに妨げられ、中絶してからもう十日あまりになった。どうやら其まま感興も消え失せてしまいそうである。
今年の夏も、昨年また一昨年と同じように、毎日まだ日の没しない中から家を出るが、実は行くべきところ、歩むべきところが無い。神代帚葉翁が生きていた頃には毎夜欠かさぬ銀座の夜涼みも、一夜ごとに興味の加るほどであったのが、其人も既に世を去り、街頭の夜色にも、わたくしはもう飽果てたような心持になっている。之に加えて、其後銀座通にはうっかり行かれないような事が起った。それは震災前新橋の芸者家に出入していたと云う車夫が今は一見して人殺しでもしたことのありそうな、人相と風体の悪い破落戸になって、折節尾張町辺を徘徊し、むかし見覚えのあるお客の通るのを見ると無心難題を言いかける事である。