Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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うまれいずるなやみ

生まれいずる悩み

有島 武郎

Lesen Sie 生まれいずる悩み (うまれいずるなやみ) von 有島 武郎 (ありしまたけお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 50.587 Zeichen · 100 Bildschirme

Aozora Bunko

「大きな手にはつかまれる」‥‥そう思いながら君はその店の角を曲がって割合にさびれた横町にそれた。

その横町を一町も行かない所に一軒の薬種店があって、それにつづいて小さな調剤所がしつらえてあった。君はそこのガラス窓から中をのぞいて見る。ずらっとならべた薬種びんの下の調剤卓の前に、もたれのない抉り抜きの事務椅子に腰かけて、黒い事務マントを羽織った悒鬱そうな小柄な若い男が、一心に小形の書物に読みふけっている。それはKと言って、君が岩内の町に持っているただ一人の心の友だ。君はくすんだガラス板に指先を持って行ってほとほととたたく。Kは機敏に書物から目をあげてこちらを振りかえる。そして驚いたように座を立って来てガラス障子をあける。

「どこに」

君は黙ったまま懐中からスケッチ帳を取り出して見せる。そして二人は互いに理解するようにほほえみかわす。

「君はきょうは出られまい」

君は東京の遊学時代を記念するために、だいじにとっておいた書生の言葉を使えるのが、この友だちに会う時の一つの楽しみだった。

「だめだ。このごろは漁夫で岩内の人数が急にふえたせいか忙しい。しかし今はまだ寒いだろう。