Japanische Klassiker mit Furigana
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うまれいずるなやみ
生まれいずる悩み
有島 武郎
Lesen Sie 生まれいずる悩み (うまれいずるなやみ) von 有島 武郎 (ありしまたけお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 50.587 Zeichen · 100 Bildschirme
五
五
長い冬の夜はまだ明けない。雷電峠と反対の湾の一角から長く突き出た造りぞこねの防波堤は大蛇の亡骸のようなまっ黒い姿を遠く海の面に横たえて、夜目にも白く見える波濤の牙が、小休みもなくその胴腹に噛いかかっている。砂浜に繁われた百艘近い大和船は、舳を沖のほうへ向けて、互いにしがみつきながら、長い帆柱を左右前後に振り立てている。そのそばに、さまざまの漁具と弁当のお櫃とを持って集まって来た漁夫たちは、言葉少なに物を言いかわしながら、防波堤の上に建てられた組合の天気予報の信号灯を見やっている。暗い闇の中に、白と赤との二つの火が、夜鳥の目のようにぎらりと光っている。赤と白との二つの球は、危険警戒を標示する信号だ。船を出すには一番鳥が鳴きわたる時刻まで待ってからにしなければならぬ。町のほうは寝しずまって灯一つ見えない。それらのすべてをおおいくるめて凍った雲は幕のように空低くかかっている。音を立てないばかりに雲は山のほうから沖のほうへと絶え間なく走り続ける。汀まで雪に埋まった海岸には、見渡せる限り、白波がざぶんざぶん砕けて、風が――空気そのものをかっさらってしまいそうな激しい寒い風が雪に閉ざされた山を吹き、漁夫を吹き、海を吹きまくって、まっしぐらに水と空との閉じ目をめがけて突きぬけて行く。