Japanische Klassiker mit Furigana
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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
Lesen Sie 痴人の愛 (ちじんのあい) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 179.399 Zeichen · 353 Bildschirme
………ね、分った? 泣いちゃいけない? いけなけりゃ拭いて頂戴」
ナオミは懐から紙を出して、自分では拭かずに、それを私の手の中へ握らせましたが、瞳はじーッと私の方へ注がれたまま、今拭いて貰うその前に、一層涙を滾々と睫毛の縁まで溢れさせているのでした。ああ何と云う潤いを持った、綺麗な眼だろう。この美しい涙の玉をそうッとこのまま結晶させて、取って置く訳には行かないものかと思いながら、私は最初に彼女の頬を拭いてやり、その円々と盛り上った涙の玉に触れないように眼窩の周りを拭うてやると、皮がたるんだり引っ張れたりする度毎に、玉はいろいろな形に揉まれて、凸面レンズのようになったり、凹面レンズのようになったり、しまいにははらはらと崩れて折角拭いた頬の上に再び光の糸を曳きながら流れて行きます。すると私はもう一度その頬を拭いてやり、まだいくらか濡れている眼玉の上を撫でてやり、それからその紙で、かすかな嗚咽をつづけている彼女の鼻の孔をおさえ、
「さ、鼻をおかみ」
と、そう云うと、彼女は「チーン」と鼻を鳴らして、幾度も私に洟をかませました。
その明くる日、ナオミは私から二百円貰って、一人で三越へ行き、私は会社で午の休みに、母親へ宛てて始めて無心状を書いたものです。