Japanische Klassiker mit Furigana
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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
Lesen Sie 痴人の愛 (ちじんのあい) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 179.399 Zeichen · 353 Bildschirme
それは大そう蒸し暑い晩のことでしたが、ナオミは白っぽい、ふわふわした、薄紫の葡萄の模様のあるモスリンの単衣を纏って、幅のひろい、派手な鴇色のリボンで髪を結んでいました。そのモスリンは先達のお盆に買ってやったので、彼女はそれを留守の間に、自分の家で仕立てて貰って着ていたのです。
「ナオミちゃん、毎日何をしていたんだい?」
車が賑やかな広小路の方へ走り出すと、私は彼女と並んで腰かけ、こころもち彼女の方へ顔をすり寄せるようにしながら云いました。
「あたし毎日活動写真を見に行ってたわ」
「じゃ、別に淋しくはなかったろうね」
「ええ、別に淋しいことなんかなかったけれど、………」
そう云って彼女はちょっと考えて、
「でも譲治さんは、思ったより早く帰って来たのね」
「田舎にいたってつまらないから、予定を切り上げて来ちまったんだよ。やっぱり東京が一番だなア」
私はそう云ってほっと溜息をつきながら、窓の外にちらちらしている都会の夜の花やかな灯影を、云いようのない懐かしい気持で眺めたものです。
「だけどあたし、夏は田舎もいいと思うわ」
「そりゃ田舎にもよりけりだよ、僕の家なんか草深い百姓家で、近所の景色は平凡だし、名所古蹟がある訳じゃなし、真っ昼間から蚊だの蠅だのがぶんぶん呻って、とても暑くってやり切れやしない」