Japanische Klassiker mit Furigana
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しろくれない
白くれない
夢野 久作
Lesen Sie 白くれない (しろくれない) von 夢野 久作 (ゆめのきゅうさく) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 24.846 Zeichen · 50 Bildschirme
そのほかは常に未明より起き出で、田畠を作り、風呂を湧かし、炊爨の事を欠かさず。雨降れば五六里の山道を伝ひて博多に出で、世上の風評を聞き整へ、種々の買物のほかに奈美女の好む甘き菓子、珍らしき干物、又は何処より手に入れ来るやらむ和蘭の古酒なんどを汗みづくとなりて背負ひ帰るなんど、その忠実々々しさ。身体の究竟さ。まことに奈美女の為ならば生命も棄て兼ねまじき気色なり。
さはさりながら奇怪千万にも馬十は、われを主人とは思ひ居らざるにやあらんずらん。わが云ひ付けし事は中々に承け引かず。わが折入つて頼み入る事も、平然と冷笑ふのみにして、捗々しき返答すら得せず。奈美女の言葉添なければ動かむともせざる態なり。われ其の都度に怒気、心頭に発し、討ち捨て呉れむと戒刀を引寄せし事も度々なりしが、さるにても彼を失ひし後の山寺の不自由さを思ひめぐらして辛くも思ひ止まる事なりけり。
然るに此の山寺に来てやゝ一年目の今年の三月に入り、わが気力の著じるく衰へ来りしより以来、彼の馬十の顔を見る毎に、怪しく疑ひ深き瞋恚の心、しきりに燃え立ちさかりて今は斯様よと片膝立つる事屡々なり。後は何ともならばなれ。