Japanische Klassiker mit Furigana
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しんぴこんちゅうかん
神秘昆虫館
国枝 史郎
Lesen Sie 神秘昆虫館 (しんぴこんちゅうかん) von 国枝 史郎 (くにえだしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 105.803 Zeichen · 213 Bildschirme
宛なしにブラブラ歩いて行く。海では波も静からしい。青葉の匂いが馨しい。
「幸福だな、幸福だ」
呟きながら彷徨って行く。
だがはたして小一郎の幸福は、幸福のままで済んだろうか? 鮫洲の宿までかかった時――一挺の駕籠が江戸の方から、飛ぶように走ってやって来て、小一郎の傍を駈け抜けて、そうして夜の東海道を物怪のように走り去った時――そうしてその駕籠から何物か、地上へポンと落とされた時――そうしてそれを小一郎が、不思議に思って拾い上げた時、彼の幸福は覆えされてしまった。
拾い上げたのは簪であった。脚に紙片が巻き付けてある。それに文字が書かれてある。恐らく小指でも食い切ったのだろう。そうしてその血で書いたのだろう、生々しく赤くこう書かれてあった。
「悪者に誘拐されております。どなたかお助けくださいまし」そうして「桔梗」と記してあった。
「ム――」と呻いた小一郎は、ブルッとばかりに顫えたが、「駕籠待てエーッ」と思わず大音に呼んだ。しかしその駕籠はついに馳せ去り、もちろん姿は見えなかった。気勢で呼んだまでである。
「これはこうしてはいられない!」
大小の鍔際を抱えるように、グッと握って胸へあてたが、片手で裾を端折ると、さながら疾風が渦巻くように、月夜に延びている街道を、走り下ったものである。