Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(三) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 222.108 Zeichen · 446 Bildschirme
「命松、もういいのか」
「たくさんです」
「もっと食べい。たくさん食べぬと風邪は癒えぬ」
「もう、はいりません」
彼はまた烈しく咳き入りながら、火の玉みたいな顔に深々と夜具をかぶって寝てしまう。
――雀はチョン、チョンとそこらを歩く。――兼好が机の方へ立ちながら、なにか撒いてやったからであった。
机は主の“止まり木”に似ている。――吉田山の梟は、ここから世のうつり変りを飽きもせず眺め暮らす。
つい百日ほどな間に世は一ぺんに引っくり転った。
笠置で捕われた公卿やら法師や武者ばらが、たくさん六波羅へ送り込まれ、つづいてはまた、赤坂城も落ちたと聞く。
「……この冬を」
みかどの後醍醐も囚われのまま、いまだに六波羅別院の板屋びさしにお過ごしと人々は沙汰している。
「人みな何を求めて?」
と、兼好は自問自答をしてみるほどな興もなかった。――釈迦のいう救いもない末法末世がやって来たかと見きりをつけているばかりだった。
「……だが、ふしぎ」
その彼にも、むかしの恋人のみは忘れえない。初老の埋み火は亡き女の面影をあたためている。
もし若いころの恋が成っていたら、子も生していたかもしれず、必然、滝口の武者の一員として、こんどの合戦には召されていたろう。