Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(三) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 222.108 Zeichen · 446 Bildschirme
もちろん、遠流の宣告は、院(後伏見上皇)のお名をかりて、数日前に、果たされている。
そのさい幕府側では、おそらく素直なご承服はあるまいと観て、それのいい渡しには、甲冑の示威をも用いたほどだったが、案外、後醍醐は、
「そうか」
とのみで、莞爾ともなされなかったが、なんら逆鱗ともみえなかった。幕府側は、空を打った思いをして、
「さしも、今はこれ天命と、すべてを神仏にまかせられたか」
と、後では言ったものである。
事実、お身近な二人の侍者にも、三名の妃にも、そううかがわれた。ひたぶる何かを呪うが如く赤い濁りをおびていたおん眼のうちも、この頃は澄明な以前のものに返っており、折に柔和な笑みさえたたえられる。ひとつには女性の侍きが和ませて来た効でもあるにちがいないが、朝暮に仏を拝し、歌を詠み出され、とにかくお変りの態はあらそえない。
つひにかく
沈み果つべき
報いあらば
上なき身とは
なに生れけむ
こうした獄中の詠もある。また昨日、百数十日のあいだを、獄舎虱と共に起居した所から、ここへ移って出られるさいにも、
いざ知らず
なほ憂き方の
またもあらば
この宿とても
忍ばれやせむ
と、その獄へさえ、名残りを呟いておられたほどだ。