Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(五) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 252.330 Zeichen · 505 Bildschirme
――それのためには、下赤坂を復旧して、ふたたび木の根や草を食わぬ用意だの要害も要る……」
ふと、彼は耳をそばだてた。
「久子」
「はい」
「ここの奥か、外の小屋か。生れたばかりのような嬰児の声がどこかでするが……。あれは?」
「お妹の卯木さまが、ついさき頃、御安産なされました。まだ産屋囲いのうちにお臥せりではございますが」
「え。卯木が産んだか」
「それもほんに玉のようなよい男の子を」
「ふうむ」
正成は、唇をむすんで、やがて、そのおもてにあった戦場いらいの硬ばったものを、自然な微笑に解していた。
黒い戦雲の下では、あんなにも人が死んで行き、ここには、呱々の声が一つ新たに生れている。
「ふしぎだなあ!」
沁々と、彼は肺の深いところから、つぶやいた。
「こんな籠城の中からでさえ、宿ったものは、ついに生ぶ声をあげずにいない。しかも木の根や草で養われた胎内の子ではなかったか。……ああ、やがて次代に、そんな子がどう成人してゆき、またどんな宿業を課せられた人となって行くのか。思えば、おもしろい宇宙だ。いや不思議きわまるものだ。人間の子が生れるというこの争いえない神わざは!」