Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(五) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 252.330 Zeichen · 505 Bildschirme
暗君片鱗
藤も散り、なぎさの菖蒲やつつじの花も黒ずんできた五月の蒸し暑い昼だった。すると、庭の遠くで、
「女房がた。女房がた」
と、男の顔が垣越しに、
「なんとなされましたぞ。ご執権のお焦立ちにふれぬうち、早ようお持ちなされ。いつものものを」
と、内へ告げて立ち去った。
われに返った裳や黒髪は、あわててそれぞれの局へかくれた。そして顔のくずれを鏡に直し、やがてのこと、お妻の局がお薬湯の天目をささげ、また、ほかの局も、お手ふきやら、ぬる湯を入れた耳盥などを持って、廊から廊を、執権のいる表小御所のほうへ渡って行った。
これは、いつも、
「お目ざめ」
と聞くとすぐ彼女らがする御起居の習慣となっている。
とかく夜は眠れず、昼は時を問わず、疲れるとすぐ横になる高時だった。その錯倒もここ数日は極端になり、いまもむっくり起きたところであった。
夢見でも悪かったのか。醒めて安居していたが、不きげんだった。またひどく青白い。
もっとも、具足のままだ。浮かないのはムリもない。小手指ヶ原、分倍河原と、新田勢の南進を刻々耳にしはじめてからは、さすが戦嫌いな彼も、かたい腹巻と、籠手脛当は、寝るまも脱いでいなかった。