Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(五) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 252.330 Zeichen · 505 Bildschirme
「――高時公の二男亀寿どのを負うて落ちた諏訪三郎盛高のことか」
「ええ……」と、棗は、はじめてニコとした。それもやや誇らしげに「そうです。私の兄盛高は、五大院宗繁みたいな腰抜け武士ではありません」
「国元はどこ」
「信濃です。兄と共に、私も小さいとき、信濃から来て、御所へご奉公にあがったのです」
師氏が代って訊いた。
「……では、そなたの兄、諏訪盛高が落ちて行った先は信濃だな」
「たぶん……」
棗は、すこし口を濁して。
「そうだろうと思いますが」
「して。この浜小屋の漁夫は、何者か」
「見たとおりのよいお人です。むかしから独りぼッちでここにいました。あるとき、二位のお局さまが、浜御遊のとき憐れんで、爺よ、おまえの漁りしたお魚はなんなと御所へ持っておいで……と仰っしゃって下されてから、一匹の鯛でも、一ト笊の雑魚でも、採れればきっと御所のお台所へ持って見えました。それで私たちとも仲よくしていたおじいさんです」
横で、翁は涙をふいていた。
嘘がない。真情があらわれている。いまの武士間にも巷にもはや廃れきッているかに見える、人と人との信頼や温め合いも、まだ、こんな磯小屋の孤独な翁や乙女の中には残っていたかと眩くおもう。