Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(五) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 252.330 Zeichen · 505 Bildschirme
足利殿のほかにはいない。
だが、武士大衆の寄せる期待をよそに、その六波羅は、ひっそりだった。――五条大橋以南の森には、当今流行の普請工事のいろめきもしてないし、武者風俗も一般に地味で、さかんなのは、蝉の啼き声だった。
それと。
当の高氏も、めったに朝に出ることもないらしい。社交上のやむない向きへは、執事の高ノ師直をやり、公庁の時務には、もっぱら弟の直義が出むいて事にあたっている。しきりと高氏へ接したがって、六波羅を訪う者でも、高氏と会った者はすくないといわれている。では、この多事多端な日を一体何しているのかといえば、外観上では何もしていないかのような彼なのだった。事実、そう見えることが高氏のねらいであったかもわからない。
「ちと、慎もうよ」
そういったことがある。
とくに日常、いやでも公卿の庁だの、渉外の局に当る直義や師直にたいしては、
「行き過ぎをやるな。何事によれ、下手に下手に」
と、いっていた。
こんなにも彼が気をつかっていたというのも、ひとえに世評をやわらげるためだった。また露骨な武士大衆の輿望が、ここ急潮に自分へかたむいて来る形勢なども、彼としてはむしろ危険視していた。