Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記 (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 126.598 Zeichen · 254 Bildschirme
「はははは」
正成は笑った。
「兵学家とすれば、当然な仰せだろうが、わしにはわしの信条がある。正季、祈りは、祈りでいいじゃないか」
「おことば。よく分りかねますが」
「百姓も正成も、この旱には、打ち勝つ手もない。ただ、祈りを抱くだけなのだ。――それも、兵法に倣えば、雨が早く来るとなら、兵法にも従うがの」
「では、雨乞いをいたせば、雨がさっそく降りますか」
「降るまいなア。やはり降るべき天象が自然に、巡って来ぬうちは」
「おなじなら、先生のお説を用いて、天候の変を測り、併せて、人心の機微をつかむ方が、領主の賢明ではありませぬか」
「ばかな」
少し気色を損じたらしい。
こんなときの正成は、悪い方の右眼のまぶたに、かろい痙攣の風を示すのだった。吃がその感情の閊えを、唇に見せる、あれと似ている。
一眼の悪いせいか、鬱陶しげに、やや顔を斜にして物をいうのも、正成の癖である。濃い眉毛と、高い隆鼻が、横顔では、よけい目立つ。
そういう癖だの、また広い肩幅や長やかな手足が、岩磐のように、ゆったり胡坐しているのを見ると、正季すらも、ついこの兄を、およそ神経の太い、大人みたいにおもいがちだが、まことは、感情家だとよくいわれる弟の自分よりは、よほど細心で潔癖な兄であったことを、彼は今も、気づいて来た。