Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記 (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 126.598 Zeichen · 254 Bildschirme
――正季どのより、加賀田のお師のお智恵を、おつたえしておいたが、ついにお採り上げにはならず、雨も降らずでは」
「なにを、おまえらが」
老人はすぐむきになった。そのむきになるのを郷武者の若いのが、いつもおもしろがって、からかうものとは知らず、
「神事を行うに、など兵法を用いんやじゃ。お屋形(正成)のまっ直なお心をうかがって、この爺などはおそれ入った。いまに見い、神の感応あって、かならず大雨を見ようわえ」
「あはははは」
若い顔が、みな笑った。
「今に――とな」
「なるほど」
「それや、降るに極ッている」
老人の方は見向きもしない。もう馬をせかせか追っていた。――龍泉寺の大屋根がほどなく見えた。それに隣して、檜林に深く沈んでいる方の屋根が“龍泉殿”正季の屋敷である。
「おいでかな?」
呟きながら馬をつないだ。門前を通れば、常に、あいさつだけでもして行くのがこの老人の律義であったようだ。その訪れを見て玄関の小侍は、
「おお、御家老ですか。殿は、お物蔵のほうにおられますが」
と西側の、木立の奥を指さした。
彼はすぐそっちへ歩いた。
土倉と土倉との間を、橘ノ紋を打った幕が張り繞らされている。