Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記 (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 126.598 Zeichen · 254 Bildschirme
と、正成は、語をつづけた。
「お汝ら夫婦が、これへ来たのは、山田申楽の座に修行入りせんためとあるが、それもこう、六波羅者の邪げでは、しょせん、願いは能うまい。それよりは」
一瞬、瞼をとじる。
大屋根を掻きむしる暴風雨の爪が、ここの灯と沈黙をも、怒濤の中、そのものにしていた。正成は、何やら紫の布でくるんだ一包みを懐から出して、片膝の上に持ったまま「……卯木、ここへ」と、眼でまねいた。
「……はい、なんぞ?」
こわごわすすみ出ると、正成は一方の手で、妹の手をすくい取った。そして、彼女の窶れ顔の中の幼い面影を、しげしげ探すように見入って、
「父も母もないそなたに、故郷も茨だったな。愛しいやつとは思うなれど、はや此処は立ち去ってくれよ。いずこへなと、遠くに行って、良人と仲よう生涯を送るがいい。それが、人と生れた一番の倖せであったと思い当る日もあろう。……この金は、正成が与えるのでなく、そなたの亡き親が下されるもの。これをもとでに、何なと生活の道を見つけてくれい。――さ、ここを立ち出るには、今しかあるまいぞ。この風雨こそ、勿怪な機、夜の明けぬまに」
と、紫づつみの重たいものを、妹の手に、かたく持たせた。